私とは何か――
この果てしない問いは、肉体を持って生きる私たちの内に、絶えず芽生え続けている。
テオヘイズは、指紋やDNAといった個の痕跡に加え、依代といった象徴を通して、個人の存在証明と宇宙的原理を結びつける試みを行い、「存在の証」と「見えないルーツ」のあわいを可視化する。
会場は、戦後アヴァンギャルドを牽引した具体美術協会の中心人物・嶋本昭三氏の旧居住地を発信基地として1960年後半に建て替え設立されたArtSpace。ここは、物質と精神の接点を求めたかつての実験精神と、現代に立ち上がる新たな霊性が交差する歴史ある場である。
GUTAIの精神に則りオリジナリティを追求する中で、自らの存在追求と嶋本を驚かせたい思いで辿り着いたのが「指紋」。卒業作品で2mの指紋のモチーフを使ったことに由来する。
展示タイトル「The Roots」は、私たちの身体、記憶、精神、そして先祖や神話の見えない回路をたどる試みである。副題「彼女の独身者たち、さえも」は、現代アートの起源としてしばしば引用されるマルセル・デュシャンの未完の装置「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」へのオマージュとして、自己の完成/未完成、霊と肉の交錯、関係性の不在の中に宿る希望を示唆している。
「彼女」とは誰なのか。「独身者」とは誰なのか――。
「独身者たち」は、未統合のまま浮遊する魂たち、男性性の象徴であり、「彼女(花嫁)」は根源的な他者であり、命の受容体であり、女性性を示唆する。それは、古代の信仰に見られる男根やツノ、依代のとっき、そして花嫁を夢想させる真珠の母貝やヴェールが鑑賞者に提示される。
これら二つの関係性が時空間を超えて重なり合う作品だが、そこにあるのは完成でも不在でもなく、生成の予感であり、これは魂の深部にふれる儀式であり、静かな祝祭でもある。
本空間は、内なる神性に耳を澄ます儀式の「場」となる。
日時:2025年 5月13日(火) – 5月23日(金) 13:00 -18:00 (最終日のみ17:00まで)
レセプション 5月18日(日) 14:00 – 16:00 *5月17日 (土)は休廊
会場:Gallery Art Space
兵庫県西宮市甲子園口1丁目1-10 TEL 0798-64-5730

「彼女の独身者たち、さえも」 木、布、ベール、真珠の母貝、砂、漁網、レジン、釘、アクリル、真鍮箔 54x25x11cm. 2025
イタリアプレビエンナーレで嶋本と協働した「三味線と女拓」の写真も展示され、大阪・関西万博の関連イベントとして開催される本企画において、1970年の大阪万博でのGUTAIについても想起される。